As long as we both shall live

四本足の私、かつては二本足の息子より遥かに若くって、息子っていうか同じ家の末っ子長男、少なくともわたしの記憶の始まりにおいては小さな息子だった、はずだのにいつしか年子の弟のようなわずかな年の差に、やがて同世代の若者になって、受験や浪人、苦…

心を折るくらいでは細い骨さえ砕けず、気づけば勝手に生きている。体が揺らぐと重力に合わせてステップが始まる、私たちは転ばないように踊るすべを覚えた。三拍子を二本の足でさばけるのが不思議だ。 いつも少しだけ余計であることが永遠へ続き、至らないで…

心技体

好きだった菓子も律して食べないようにしているうちに、不思議と好きではなくなった。均質な甘さより筋質の厳しさを選び取っていった結果、身体は強く、堅く頑なに成り果てた。いつも今日が人生最後であっていいように、今日が人生最後の日であるかのように…

take/off

バラバラになってからからの白い体を、箸で拾い上げて壺に積み入れる。きみはどこを切っても同じ顔が出てくる飴に似てた。まっすぐに練られていてどこまでも均質であまくて。だからこんなに複雑で繊細な形をしていたことにちょっと驚いてしまった。きっとみ…

ミックスキャンディ・トーキョー

中野のあの店はまだあるだろうか、と急に思った。生まれてこの方東京から出たことのない私が、再びそう遠くないエリアに引っ越してきて一年半が経つくせに、中野には滅多に行かない。用がなかったら行かないし、用が出来るような町でもない。そういう町は幾…

xy

あなたはたくさんの感情をやたら煮詰めては甘くしていたが、それを掬って塗りたくったり差し出したりはしないようだった。ただ瓶に詰めて蓋をしてラベルを貼る。かたづける。あなたのやり方が新鮮で、どうも勿体ないようにも思えたけれど、迷いのない手つき…

赤い花束

墓の前だった。目を上げた先はよく晴れた空と緑の丘で、そこにNは立っていた。男がNだということと、彼が真っ赤なカーネーションの花束を持っていると私が認識したのはほぼ同時だった。Nが買う花といえば、カーネーションしかなかったからだ。彼の母は、五月…

うつらない

母は中華飯店とキャバレーで働いており、父は何の仕事かわからないがロックミュージックを好み、自宅でライブの映像を見ながら友人たちとパーティーをしていた。二人ともよく飲み、笑っていて若い。 彼らの写真を撮ったり音声を録ったりしていたのだが、母が…

美しい没入

ダンスフロアから束の間の帰還、彼は熱心に昨日観たドラマの話をしていた。私も観たよそのドラマ、と言うと身を乗り出して喜んでいたけど、体を私に向けて話しても私を見てはいず、自分の見たもののことだけ思い出しているのがわかるから、悪気なく明るく、…

ダンスフロアのかぐや姫

「暗」にも「闇」にも音があってやさしい音楽の根であり寝床、ゆりかごかもしれない場所 だからあの子は目を瞑って音に泳ぐのねまるで生死の果てに帰っていくみたいな安心しきった顔で 瞬きの間に彼女が体ごと消えるんじゃないかときりきりと気を張って見て…

一生涯でいちばんいい時代

灯りのない方が、考え事には意外と向いてる。ここは暗闇でしかない、と思う時にいちばん思考の癖が出る。ついでにあなたの夢にも出てしまって人生が面倒に交差する。自分より下と思える相手じゃなきゃ馴れ合えないし、どの居場所もひどく所帯じみて醤油とみ…

みたいの

自分の中に神や国を見つけられなかったひとたちが考えるのをやめてつくった呪文がある起動するとぼくみたいのができるぼくみたいの、は群生する 水平線を横並びに座ったまま見ている|昔は「おりじなる」っていうのがあって|意味がないのに歌ったり|ひたす…

ラッキーカラー

毎日、ラッキーカラーを取り入れる。ヘアアクセサリーからカーディガン、アイシャドウ、靴に至るまで、その色を手持ちで揃えることができるよう、朝のテレビ番組とブックマークしたウェブの占いをまわって調べ尽くす。今日はエメラルド色に光るグリーンだっ…

致死量に至らない自己愛

ロックンローラーは甘い物好きでバナナとベーコンとピーナッツバターを挟んでホットサンドにして日々食べてぶくぶく太ってそれで死んだというのは噂 好きなものを好きなだけ何も悪いことをしていないそれでも体はいのちを裁くからいちばんカロリーが少なそう…