take/off

バラバラになってからからの白い体を、箸で拾い上げて壺に積み入れる。きみはどこを切っても同じ顔が出てくる飴に似てた。まっすぐに練られていてどこまでも均質であまくて。だからこんなに複雑で繊細な形をしていたことにちょっと驚いてしまった。
きっとみんな平等にきみを享受したし、そのことはきみのよすがだったろう。ひとりずつの口のなかですぐにほどけてしまうようなやさしさばっかり。もっと泣けばよかったのに。

かつての雨の日、神宮前のカフェから窓の外を垣間見ながら待って、傘がないというから結局は迎えに行くことになった。
どんよりとした空の下なのに、きみはうれしさを体中にまとって、今にも歌い出しそうに小さく跳ねて歩く。スローなぶつぎりの再生で、僕の頭の中で映写されているきみ。そのころはまだ平らな笑い方なんかしてなかった。

世界中の菓子を再現して提供していたそのカフェは、行く度に旅しているみたいで気に入っていたけれど、しばらく行かないうちになくなってしまった。搭乗口を見失って、なんだかもう飛び立てずにこの場所にずっと閉じ込められてしまったような気持ち。実際今はとにかくひどい時代で、どこへ行くにも通行証が要るしそもそも遠くには行けない。顔を隠すように覆ったまま、配慮を交わしながら憎しみまで隠しあって、毎日どこかの端をめくればいつでもちゃんと地獄がある。距離の適切さまで見張られているような時間に、きみの体を生きるべきじゃなかった。だから正しい選択だった、少なくとも僕はそう思う。

飛行場で離陸していくのを見やりながら手を振るように、煙を見つめていたことを思い出す。
どこにも着かないで、ずっとずっと遠くまで行けるのが少し羨ましかった。