2022-10-01から1ヶ月間の記事一覧

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あなたはたくさんの感情をやたら煮詰めては甘くしていたが、それを掬って塗りたくったり差し出したりはしないようだった。ただ瓶に詰めて蓋をしてラベルを貼る。かたづける。あなたのやり方が新鮮で、どうも勿体ないようにも思えたけれど、迷いのない手つき…

赤い花束

墓の前だった。目を上げた先はよく晴れた空と緑の丘で、そこにNは立っていた。男がNだということと、彼が真っ赤なカーネーションの花束を持っていると私が認識したのはほぼ同時だった。Nが買う花といえば、カーネーションしかなかったからだ。彼の母は、五月…

うつらない

母は中華飯店とキャバレーで働いており、父は何の仕事かわからないがロックミュージックを好み、自宅でライブの映像を見ながら友人たちとパーティーをしていた。二人ともよく飲み、笑っていて若い。 彼らの写真を撮ったり音声を録ったりしていたのだが、母が…

美しい没入

ダンスフロアから束の間の帰還、彼は熱心に昨日観たドラマの話をしていた。私も観たよそのドラマ、と言うと身を乗り出して喜んでいたけど、体を私に向けて話しても私を見てはいず、自分の見たもののことだけ思い出しているのがわかるから、悪気なく明るく、…

ダンスフロアのかぐや姫

「暗」にも「闇」にも音があってやさしい音楽の根であり寝床、ゆりかごかもしれない場所 だからあの子は目を瞑って音に泳ぐのねまるで生死の果てに帰っていくみたいな安心しきった顔で 瞬きの間に彼女が体ごと消えるんじゃないかときりきりと気を張って見て…

一生涯でいちばんいい時代

灯りのない方が、考え事には意外と向いてる。ここは暗闇でしかない、と思う時にいちばん思考の癖が出る。ついでにあなたの夢にも出てしまって人生が面倒に交差する。自分より下と思える相手じゃなきゃ馴れ合えないし、どの居場所もひどく所帯じみて醤油とみ…