一生涯でいちばんいい時代

灯りのない方が、考え事には意外と向いてる。ここは暗闇でしかない、と思う時にいちばん思考の癖が出る。ついでにあなたの夢にも出てしまって人生が面倒に交差する。自分より下と思える相手じゃなきゃ馴れ合えないし、どの居場所もひどく所帯じみて醤油とみりんで野菜を炊く匂いで満ちている。強い光からは逃げ出して、すぐ離れないと俺は死ぬ。でもそこから這い上がれると思ってる。ここは底じゃないと思ってる。俺みたいにはなるなよなるんじゃないぞ、忘れたころに思い出させてやるから今は忘れてお前もくたばれ。俺の世界は偶然にもいまだにあなたの世界のままで、いちいち再 / 起動かけなくたって常に同期されてんだ、設定の外し方がわかんなくて、これはサポートが切れるのを待つしかないな。本来こんな作業は成功すべきじゃなかったんだ。さもなければ俺たちは、本当に重なり合ってしまうって、何で危ないと思わなかった? 少し緩くなった指輪を回しながら、いつだかあいつが上の空で唱えていた呪文、「形ある愛は凡人に与えられた唯一の幻想」ってやつ、誰のこと言っていたのか今更わかんなくって、苦笑いもできない。